柴犬の拾い食いについて

私が思う「犬との理想の散歩」とは、多少犬が引っ張っていても、飼い主さんが「ねえ」と呼びかければ、犬は「なあに?」と振り向いてくれる。飼い主さんが立ち止まって、待っているようにお願いしたら、犬はじっとしていてくれる。そんな、お互いを気にし合って、一緒に歩けているような散歩です。

散歩しているとき、愛犬には臭いや音、景色、動くものを楽しんでほしいと思っています。もちろん、危険のない範囲でコントロールできるという条件のもと、です。

拾い食いに関しては、犬の本能から考えれば自然なことだと思います。野生の犬たちだったら、獲物が捕れなかったときや小腹が空いた(?)ときに食べられそうなもの(木の実や虫など)が落ちていれば、それを拾って食べるはず。むしろ食べられるものが落ちているのに全然興味を示さないほうが、本来の犬の姿としては不自然だと思うのです。

でも飼い主さんとしては、落ちているものを食べてほしくない。拾い食いをやめさせるためには、まず「拾い食いはできない」と学習させることがポイントです。そして、拾わない習慣をつけることも重要。

お散歩中の拾い食いで困っている飼い主さんはとても多いですが、「拾わないことを学習させなければならない」ことを理解している方は少ないように思います。柴犬の『はな』の飼い主さんもそうでした。

「拾い食いが直らなくて困ってます」という相談を持ちかけるということは、これまでにたくさん拾っているということですね。どんなものを拾って食べた経験があるか聞いてみると、出るわ出るわ(笑)。葉っぱに乾いたミミズの死骸、タバコ、何かの実、フライドチキンの食べ残し、猫の糞などなど……。

幸い、これまで大事に至っていないようなので、はなはずいぶんお腹が強いのかもしれません。とは言え、それほどたくさん拾わせてしまったということは、飼い主さんのリードさばきに問題がありそうです。

犬にとって気になるものが手に入ったら、それは「成功報酬」となります。この成功報酬は、もちろん犬を喜ばせてしまいます。喜ぶようなことが起きると、犬はその行動を繰り返すように。こうして学習し、さらに繰り返すことで習慣として定着していくのです。

はなの場合には、これまでに相当いろいろなものを拾って、かなりいい思い(?)をしていると思われます。トレーニングを始めたら、飼い主さんが「もう絶対に拾わせない」という強い意志を持つことが大切です。うっかりまた拾わせてしまうと、「がんばれば拾える」という、大変ありがたくない学習になってしまうからです。

具体的な方法としては、まずリードを短く持ちます。ぎりぎり首を吊らないくらいのところでしっかりと握ります。その腕が前や横に出たり、上がったり下がったりしないように、体の横でできるだけ固定します。

犬が首を下げて臭いを嗅ごうとしたら、飼い主さんは立ち止まって、リードをちょいちょいと真上に引き上げ、こちらを見てくれるまで名前を呼びます。目が合ったら、おやつを与えます。

これを繰り返していると、犬は「何か見つけて臭いを嗅ごうとすると飼い主がリードをちょいちょいしてくれて、おやつがもらえる」と学習します。拾おうとしたものよりもおやつのほうが魅力的であれば、拾う行為はすぐにやめるでしょう。そのうち名前を呼ばれなくても、「ちょいちょいされるとおやつがもらえる」と思って飼い主さんの顔を見てくれるようになるはず。「何かが落ちていると、飼い主さんがリードをちょいちょいしてくれる」と学習したら、ちょいちょいしなくても顔を見上げてくれるようになります。

犬が頭を下げて地面の臭いを嗅ごうとしたり、拾おうとしたときに「ダメ!」などと言う必要はありません。どうせダメと言われても、拾える可能性がある限りやめませんし、「ダメと言われても拾える」という学習になるだけです。ムダなエネルギーは使わず、ただ淡々と、首輪(あるいはジェントルリーダ古を引き上げればよいのです。

これを続けて、臭いを嗅ごうとしたり、拾おうとしなくなってきたら、おやつを与えるのは、何回かに1回に減らしましょう。与えないときは、声でほめてやるようにします。なでられるのが好きな犬は、なでてやるのもよいでしょう。ある程度の時間はかかるかと思いますが、やがておやつはいらなくなります。最低でも1ヵ月は続ける覚悟で取り組んでください。

はなの飼い主さんには、それと並行して飼い主と愛犬の正しい関係を作る柴犬のしつけを3週間実施してもらいました。

外でのトレーニングを始めると、食いしん坊のはなはすぐに名前を呼ばれるとおやつがもらえることを理解。「こつちのほうがおいしい!」とばかりに、たびたび私の顔を見上げるようになりました。それはそうですよね。乾いたミミズより、チーズのほうがおいしいと思いますし、がんばつて見つけて拾わなくても、顔を見上げるだけで、チーズがもらえるのですから。

リードを飼い主さんに渡すと、はなはふだん通り拾い食いをしようとしましたが、やはりすぐに「名前を呼ばれて顔を見上げればチ-ズがもらえる」ことを理解し、うれしそうに顔を見上げるようになりました。

はなはこのトレーニングを気に入ったようで、拾い食いをやめるまでに、そう長い時間はかかりませんでした。おやつはだんだん減らしていき、そのうち必要なくなると思います。ただし柴犬という犬種は、とくに臭いを嗅いだり、拾い食いをするのが好きなようですので、たまに与えてやったほうが良いかもしれません。お互いそのほうが安心ですし、きっと楽しい散歩になることでしょう。