友達ができない犬

『フーラ』が生後2ヵ月ちょっとでわが家に来たときには、『ロック』(8歳)、『コタロー』(6歳半)、『アクセル』(3歳)という3頭のオスがいました。

フーラが来てからは4畳半くらいの子犬部屋を作り、遊ぶときはそこを使うようにしました。成犬が飛び越えられるくらいの低めのフェンスで囲ってあるのですが、私がフーラと遊んでいても、最初ほかの犬たちは入ってこようとしませんでした。入ってきても、子犬のニオイを嗅いですぐに出ていってしまいます。

1週間すると、まずアクセルが積極的に入って来るようになりました。フーラをひっくり返して押さえつけたり、マズルをくわえたり。この段階では、アクセルが一方的にフーラに仕掛けている感じでした。それが1週間くらい続いた後、今度はアクセルがひっくり返ってフーラにお腹を見せるしぐさを見せ始めました。

多頭飼いの飼い主さんから、「先住犬が子犬にお腹を見せたのですが、負けてしまったのでしょうか?」と質問されることがありますが、そうではありません。これは人間の大人が子どもと遊んであげるのと同じで、わざとひっくり返ってあげているのです。動物行動学によると、お互い同じことをすることで遊びが成り立つとされています。つまり、上になるけど下にもなる、噛みつくけど噛まれてやるなどがそれに当たるでしょう。

それからは、アクセルとフーラの2頭はとてもよく遊びました。アクセルは子犬のフーラにボールを投げてやっては追いかけるように促したり、大きめのぬいぐるみを持っていってフーラにくわえるよう差し出して引っ張りっこを教えたりと、熱心に遊んでやっていました。

アクセルは、子犬のころコタローに遊び方を教わりました。フーラが子犬を5頭産んだときも、母犬であるフーラではなく、ほとんどアクセルが遊びを教えていました。アクセルの子犬育てはとても興味深いものでした。

フーラを迎えてから、彼女の社会化のためにパピーパーティーを開催することにしました。フーラには3頭の同居犬がいましたが、群れになった犬と仲良くできてもそれは社会化とは言いません。「うちは多頭飼いだから、犬に対する社会化はできています」と言う飼い主さんがいますが、それは間違っていると言っていいでしょう。実際には、お散歩中に2頭そろって相手の犬に思いっきり吠えかかってしまうというケースは多いのです。それでは社会化ができているとは言えません。

群れの犬と仲良くできることと、初対面の犬とちゃんとあいさつができるのは、別の問題なのです。

フーラの社会化を意識したパピーパーティーでしたが、本犬はかなりブルーなようでした。ほかの子犬たちとまったく遊ぼうとしません。集まってくれた子犬たちのなかには、相性が良さそうな相手を見つけて遊び始めている子犬もいるというのに、結局フーラは最後まで誰とも遊べませんでした。

そのときふと、フーラから「うちには大好きなお兄ちゃんたちがいるのに、なんで知らない犬と遊ばなきやいけないの?」というメッセージをもらったような気がしたのです。群れには3頭の犬たちがいて仲良く遊べるのだから、ほかの群れの知らない犬たちと遊ぶのは、じつはナンセンスなのかもしれません(群れのメンバーには、もちろん飼い主さんも含まれます)。

そんなフープも大人になりました。自らケンカをしかけることはしませんが、しつこく近づいてくる犬には「ガウッー」とやります。これは「来ないでっI」と言っているようです。フーラのこの態度は、社会化ができていないことによるものなのでしょうか?それは違うと思います。フープは、その犬に近づいてほしくないから、「来ないで!」と伝えただけだと思います。

相手が空気を読まない感じで近づきすぎたときに「嫌だ」と意志を表明するのは、メスに多いように感じます。「種」と「畑」の違いでしょうか。メスは好きでもないオスに近づかれたとき「来ないで」と言う権利があると思うのです。そしてそういうときのオスは、めったに怒りません。「失礼しました~」という感じで離れていくことが多いようです。ちなみにオオカミのオスは、絶対にメスを噛んだりしないそうです。

「犬の問題行動」とは、飼い主が困っていたり、他人に迷惑をかけたりする行動を指します。私はフープの行動に困ってはいません。人にうなることはありませんので、迷惑をかけることもありません。フーラがハッピーじゃないから、基本的にお散歩中にほかの犬へのあいさつはしない主義ですが、なかには自分の犬を寄せてくる飼い主さんもいます。

そういう場合は、ひと言「気に入らないと、ガウッてしますよ」と断っておくようにします。でないと、後で文句を言われたりする可能性があるからです。

お客さまから聞いた話ですが、怖がりのチワワの散歩をしていたら、ノーリードのゴールデンーレトリーバーがいきなり近づいてきたので、恐怖のあまり吠えてしまったら、「何てしつけができてない!」と言われてしまったそうです。吠えないようにするトレーニングも可能ですが、限度はあります。「絶対に悲鳴を上げてはダメ!」と言われてお化け屋敷に入る勇気、ありますか?

そもそも、ノーリードは条例違反です。社会のルールを守るという「しつけ」ができていないのは、このゴールデンーレトリーバーの飼い主さんのほうではないでしょうか?

犬が苦手で嫌いな人だっているのです。小さくてかわいらしいトイープードルだって、怖い人にとっては怖いのです。愛犬をノーリードにするということは、その人たちへの気遣いをしていない、ということになるのではないでしょうか。

今でもフーラは、ドッグランに連れて行っても楽しそうではありません。私の足下で「帰りたい」と訴え続けます。K9ゲームに出場するために山中湖のロッジに泊まったときも、コタロー、アクセル、アトラスは、一緒に泊まっていた友人たちにおやつをもらったり、連れの犬たちとふれ合ってみたりと忙しく動き回っていたのですが、フーラだけは八ウスに入って「そっとしておいてオーラ」を出していました。

成熟したメスとしては、自然な行動のようにも思います。そういう犬生も、ありだと思います。私は、そんなフーラを受け入れたいと思っています。